ストアのレビュー返信を Claude に下書きしてもらった夜のことです。返ってきた文面は、丁寧で整っていて、そして一行も使えませんでした。
「このたびはご意見を賜り、誠にありがとうございます」で始まる返信は、壁紙アプリの利用者に向けたものとしては堅すぎます。私が普段書いているのは、もう少し肩の力が抜けた、短い返事です。依頼文を書き直すこと三回。それでも文面の温度は合いませんでした。
手が止まったところで、ようやく気づきました。私は Claude に、自分がどんな仕事をしているのかを一度も伝えていなかったのです。
依頼文を磨く前に、足りていなかったもの
最初のうちは、依頼文の「言い回し」ばかり直していました。「もっとカジュアルに」「短めに」「敬語を弱めて」。直すたびに少しずつ近づくのですが、次の依頼では、また最初に戻ります。
理由は単純で、Claude は会話の外にある私の事情を知らないからです。誰に向けた文章なのか、どこに出るのか、過去にどんな文面を書いてきたのか。そのどれも、依頼文の中に入っていませんでした。
人に仕事を頼む場面に置き換えると、よく分かります。初対面の方に「レビューの返信を書いてください」とだけ伝えて、期待どおりの文面が返ってくるでしょうか。ほぼ返ってこないはずです。先に「うちはこういう仕事で、読む人はこういう方で」と説明してから頼みます。
Claude にも同じことをすれば良かったのです。
「仕事の説明」は5項目、1枚で足ります
長い説明書は要りません。私が使っているのは、次の5項目を埋めた1枚です。
| 項目 | 書くこと | 私の場合の例 |
|---|---|---|
| 1. 仕事の中身 | 何を作り、誰に届けているか | 個人で作っている壁紙アプリの運営。利用者は通勤中にスマホで開く方が中心 |
| 2. 文章の行き先 | どこに出る文章か | ストアのレビュー返信欄。文字数に余裕がない |
| 3. 読む人 | 相手の状況と温度 | 不具合に困っている方、または好意的な感想をくださった方 |
| 4. やらないこと | 避けたい表現・約束できないこと | 「次の更新で必ず直します」とは書かない。定型のお詫びで始めない |
| 5. 自分の文章の見本 | 過去に書いた実物を2〜3件 | 実際に返信した短い文面を貼る |
なかでも効果が大きかったのは、5番目の見本でした。「カジュアルに」と言葉で指示するより、自分が書いた実物を貼るほうが、はるかに早く温度が合います。
書く順番は「見本」から
5項目を上から順に書こうとすると、1番目の「仕事の中身」で筆が止まります。自分の仕事を一文で言うのは、意外に難しいのです。
おすすめは、逆から埋めることです。
まず、最近自分で書いた文章を2〜3件探します。メールでもレビュー返信でも構いません。次に、「これを書くとき、何に気を付けていたか」を思い出して、4番目の「やらないこと」に書きます。そこから3番目、2番目と遡っていくと、最後に1番目が自然に決まります。
私は最初、ここを順番どおりに書いて三十分ほど悩みました。逆から書き直したら、十分ほどで終わりました。
最初の依頼文は、こう変わりました
説明を渡す前の依頼文は、これだけでした。
次のレビューへの返信を書いてください。
「起動するとすぐ落ちます。直してください」説明を渡したあとは、こうなります。
【仕事の説明】
個人で壁紙アプリを運営しています。返信はストアのレビュー欄に出る短い文章です。
読む方は不具合で困っています。定型のお詫びで始めず、状況を確かめる一言から入ります。
「次の更新で必ず直す」とは書きません。
見本:「ご不便をおかけしています。お使いの機種と OS の版を教えていただけますか。分かり次第、原因を調べます」
【今回の依頼】
次のレビューへの返信を書いてください。
「起動するとすぐ落ちます。直してください」後者で返ってきた文面は、見本の温度にほとんど合っていました。手直しはひと言だけで済みました。
毎回貼る手間は、Projects に預けると消えます
説明の1枚を毎回コピーするのは、続きません。私は途中で面倒になって、貼らない日が出てきました。すると、また的外れな答えに戻ります。
そこで、Claude の Projects(継続して使う作業の置き場所)に、この1枚を指示として入れました。Projects では、同じ場所で始めた会話に、あらかじめ置いた指示が引き継がれます。画面の名称や配置は更新で変わることがあるため、最新の手順は Claude の公式ヘルプでご確認いただければ幸いです。
Projects を使わない場合は、メモアプリに1枚を置いておき、会話の最初に貼るだけでも十分です。大切なのは置き場所より、毎回同じ説明が先に届くことです。
説明は、育てる前提で
最初の1枚は粗くて構いません。使いながら、ずれた箇所だけ足します。
私の場合、2週間ほどで項目4が増えました。返信に絵文字が入っていて違和感があったので、「絵文字は使わない」と一行足しました。足すのは、実際にずれたときだけです。先回りして書き足すと、1枚が長くなり、肝心の項目が埋もれてしまいます。
今日やること
最近自分で書いた短い文章を、2〜3件探してください。それを貼って、「これを書くとき気を付けていたこと」を3つ書き出します。ここまでで、説明の半分は終わっています。
依頼文を磨く前に、仕事を1枚で伝えます。この順番に変えてから、私の「書き直し」の回数は目に見えて減りました。いま思えば、足りなかったのは言葉ではなく、前置きだったのかもしれません。