「オープンソースモデルにも拡張思考が来た」——そう感じた開発者は多いはずです。Gemma 4 が4,000トークン以上の内部推論を生成してから最終回答を出す「思考モード」を搭載してきたことで、ローカルLLMの活用戦略は大きく変わった。
だが、一口に「思考モード」といっても、Claude の拡張思考と Gemma 4 のそれは設計思想が異なります。どちらを、いつ、どのように使うべきか——それを判断するための情報を整理します。
Gemma 4 の内部推論はどう動くのか
Gemma 4 の思考モードは、DeepSeek-R1 が普及させた「思考トークン」の設計を採用しています。モデルは最終的な回答を出力する前に、内部で推論チェーン(thinking chain)を展開し、その過程でステップごとに仮説を検証しながら解を導く。
実装上の特徴は3点あります。
まず、思考トークンはデフォルトでユーザーには見えありません。Ollama や llama.cpp でモデルを動かす場合、show_thinking: true 相当のオプションを有効にすることで推論過程を確認できるが、通常の応答には含まれません。
次に、思考の深さはプロンプトの複雑さに応じてモデルが自動調整します。単純な質問には短い推論、数学や複数ステップの論理問題には長い推論が生成される傾向があります。4,000トークンという数字は上限の目安であり、常にフルで使われるわけではありません。
三点目として、26B MoE と 31B Dense では思考品質に差があります。MoE モデルは推論時のアクティブパラメータが約3.8Bにとどまるため、思考の深さより速度を優先する用途に向いています。精密な論理推論が必要な場合は 31B Dense が安定して高い品質を示す。
# Ollamaで思考モードを有効にして実行
ollama run gemma4:27b "次の数学的帰納法の証明を検証してください:[問題]"
# モデルが内部推論を展開した後、最終回答を返すClaude の拡張思考との3つの本質的な違い
Gemma 4 の思考モードと Claude の拡張思考(Extended Thinking)を比較すると、3つの軸で明確な差があります。
1. コンテキスト窓とのトレードオフ
Claude の拡張思考はAPI呼び出し時に thinking ブロックを有効にすることで機能し、思考トークンはコンテキスト窓の内側に収まる。Gemma 4 の場合、思考トークンを可視化すると実質的なコンテキスト消費が増える点に注意が必要です。26B/31B の256Kコンテキストは十分に広いが、長い思考チェーンを複数回生成すると蓄積します。
2. ユーザー側の制御粒度
Claude API では budget_tokens パラメータで思考の深さを明示的にコントロールできます。コストと品質のバランスをAPIレベルで調整できるのは、プロダクション実装で大きなメリットになります。Gemma 4 のローカル実行では、プロンプト設計によって暗黙的に深さを誘導するアプローチが主流になります。
3. 透明性の哲学
Anthropic は拡張思考の過程を「モデルの実際の思考ではなく、回答生成を支援する出力」と位置づけ、プロンプトによる思考内容の誘導に制限を設けています。Gemma 4 はオープンソースモデルなので、この種の制約はありません。思考トークンの中身を分析してプロンプトを改善するループが、より自由に回せる。
AIME 89.2% の意味——数学推論でどれだけ使えるか
Gemma 4 が発表したベンチマークの中で、最も驚異的なのはAIME(数学オリンピック予選)の89.2%という数値です。Gemma 3 の20.8%から4倍以上の改善であり、この跳躍の大部分は思考モードによるものとされています。
実際のアプリケーションでこの数字がどれだけ再現できるかは別として、思考モードが効くタスクの傾向は読み取れます。
- 複数ステップを要する問題(計算・論理・コード生成)
- 単一の回答に収束するが、到達経路が複数ある問題
- 中間検証が必要な問題(証明、エラーハンドリング設計など)
逆に、思考モードが必ずしも有効でないのはこういったケースです。
- 知識検索型の質問(回答が即座に引き出せる)
- 創作・文章生成(論理的収束より多様性が求められる)
- 低レイテンシが必要なリアルタイム応答
ローカル実装でどちらを選ぶべきか
Gemma 4 と Claude の拡張思考のどちらを選ぶかは、プロジェクトのインフラ制約で決まることが多いです。以下の判断フレームを参考にしてほしい。
Gemma 4 の思考モードが向くケース
プライバシー上の理由でデータを外部に送れない環境、APIコスト削減が最優先のバッチ処理、Raspberry Pi やエッジデバイスでの軽量推論(E2B/E4B)。Apache 2.0 ライセンスなので商用アプリへの組み込みも障壁がありません。
Claude の拡張思考が向くケース
推論品質を最大化したい用途(現時点でのベンチマーク上限を求める場合)、budget_tokens による細かいコスト制御が必要なプロダクション環境、マルチモーダル(画像・PDF・音声)との組み合わせが必要なケース。
どちらも「思考モード」という同じ名前で呼ばれるが、プロダクションでの使い勝手は一段と異なります。最終的には両方を小規模で試してから選択するのが現実的です。
今すぐ始めるための最初の一歩
Gemma 4 の思考モードを試す最速の方法は Ollama です。
# インストール後にモデルをプル
ollama pull gemma4:27b
# 推論が必要なタスクで試す
ollama run gemma4:27b "フィボナッチ数列の一般項を行列指数で導出してください"Claude の拡張思考と比較したい場合は、同じプロンプトを Claude API の thinking モードで実行し、出力品質・レイテンシ・コストの3軸で記録すること。この比較データが、プロジェクトに最適な選択を教えてくれます。