会社紹介やサービス紹介の資料を作り直すたびに、いちばん時間を奪っていたのは中身ではなく「ブランドを毎回手で再現すること」でした。テンプレートをコピーして、見出しを置いて、ブランドカラーを指定して、図を並べて、余白を整える。1ページ足すと前のページと角丸や行間が微妙にズレる。気づくと細部の調整に半日が溶けています。
私は2014年から個人でスマートフォンアプリを作り続け、いまは Claude Lab を含む4つの技術ブログも並行して運営しています。資料を作る機会は多いのに、毎回ブランドを手で組み直すコストが重く、ちゃんとした1本に数日かかっていました。その「溶けていた時間」が、Claude Design を使い始めてからほぼ消えました。今日はその過程を、つまずいた点も含めて共有します。
なお Claude Design の基本的なアクセス方法やプロンプトの型はClaude Design 使い方入門 — リサーチプレビューの始め方とプロンプトのコツに書いたので、本記事は「既存資料からデザインシステムを起こして資料を量産する」ところに絞ります。
なぜ「速く出る」より「デザインシステムが残る」が効くのか
Claude Design は Anthropic Labs が2026年4月17日に公開したビジュアル制作ツールで、Claude Opus 4.7 で動きます。左がチャット、右がキャンバスという画面で、作りたいものを説明するとキャンバス上にデザインが生成され、対話しながら仕上げていきます。入力はテキストのほか画像・DOCX・PPTX・XLSX・Webキャプチャを渡せて、出力は PDF・PPTX・Canva 送信・HTML・共有リンクに対応しています。
ここまでは「きれいな資料が速く出るツール」に聞こえます。でも実際に使って価値を感じたのは速さではありませんでした。一度ブランドを「デザインシステム」として覚えさせておくと、次からは誰が作っても、同じ統一された見た目のまま短時間で形にできる——つまりブランドが使い回せる土台として残ることです。
長くアプリを運営していると、資料は一度きりの出力で終わらせるほど消耗します。作るたびにブランドを資産として積み上げ、2本目以降は中身の原稿を用意するだけ、という構造に持っていけるかどうか。そこが個人やチームの生産性を分けると感じています。
既存スライドを1枚渡してデザインシステムを抽出する
最初にやったのは、手持ちの会社説明資料(PPTX)をそのまま渡して、デザインシステムを抽出させることでした。操作はシンプルです。
- Claude Design を開き、「Design systems」から新規作成する
- ブランドの説明文を書く
- 参考アセット(既存スライド・ロゴ・配色・GitHub リポジトリ・Figma ファイルなど)をできるだけ渡す
- 生成を実行して待つ
ポイントは3番です。説明文だけでなく完成した実物をできるだけ渡すほど精度が上がります。文章より、できあがった1枚のほうがはるかに多くの情報を含んでいるからです。公式の案内でも「カラーパレットの仕様書より、完成したランディングページ1枚のほうが多くを伝える」と表現されています。
しばらく待つと、見出しの文字サイズの段階、ブランドカラー、カードのバリエーション、余白(スペーシング)のスケールといった見た目の要素がひと通り言語化されて出てきました。さらに「数字は具体的に出す」「絵文字は使わない」といった言葉づかいのトーンまでルール化されていて、自分でもうまく説明できていなかったブランドの“らしさ”が、再現可能な形になっていたのが印象的でした。ここまでで15分ほどです。
宮大工だった祖父たちを見て育ったせいか、私には「手を動かして整えること自体が一種の信心」という感覚があります。だからこそ、整える作業を機械に渡すことにはずっと抵抗がありました。けれど、整える“基準”そのものを一度言語化して残せるなら、毎回ゼロから手で再現するより誠実だと、使ってみて考えが変わりました。
原稿を渡してスライドにする — デザインシステムが効く瞬間
デザインシステムができたら、あとは中身です。「Slide deck」で先ほどのデザインシステムを選んでプロジェクトを作り、チャット欄にスライドの構成を貼り付けるだけ。
ここでデザインシステムが効いてきます。生成されるスライドは最初から、ブランドカラーも、タイトルバーも、サービスごとのアイコンの出し分けも守った状態で出てきます。手で作ると一番しんどい「役割×工程」のマトリクス図のような複雑な表組みも、対話で形になりました。STEP1 と合わせても1時間かかっていません。数日かかっていた以前と比べると、体感がまるで違います。
任せきれなかった部分 — 余白・原稿そのまま問題・複雑な図
正直に言うと、丸投げで完成したわけではありません。手を入れた部分が3つあります。
ひとつめは余白とレイアウトの微調整です。9割は気持ちよく決まっていても、残り1割が惜しい。ここはチャットで依頼するより、「Edit」機能で px や色を直接指定したほうが速かったです。
ふたつめは「原稿どおりすぎて、スライドにすると微妙」問題です。原稿の構成をそのまま落とすと、情報が詰まりすぎたり間延びしたりします。原稿の段階で完成形をイメージするのは難しいので、ここは人間が整える前提で考えたほうが現実的でした。
みっつめは複雑な図解です。非デザイナーの感覚で言うと、頭の中のレイアウトを言葉だけで伝えるための“共通言語”が足りず、「もう少し詰めて」「この列を揃えて」の往復が増えます。実際、スライド生成の時間の大半は、たった1枚の複雑な図の調整に溶けました。
複雑な図は「下絵」を先に作って渡す
その対処として効いたのが、複雑な図だけ先に ChatGPT の画像生成で一枚絵のラフ(下絵)を作り、それを Claude Design に渡して「これと同じ図を作って」と指示するやり方です。文章で構図を説明するより、絵を見せたほうが速い。一枚絵の作り直しは画像生成のほうがトークンコストも抑えられるので、画像生成で下絵 → Claude Design で清書 という分担が、時間とコストの両面で効率的でした。言葉でうまく指示できない図ほど、この順番が効きます。
ここで自分の中の線引きも確認できました。私は国際的なデザインアワードの審査で評価をいただくことはあっても、フォトコラージュなどの作品本体には一切 AI を使っていません。一方で、資料作成やアプリのアイコン・ストア画像づくりといった運用・発信のためのデザイン作業には AI を全面的に使う——この区別が、創作の時間を守るための私なりの使い方になっています。
まず試すなら、手元にある一番出来のいい資料を1枚そのまま渡して、デザインシステムを抽出するところから始めてみてください。仕様を文章で書き連ねるより、その1枚があなたのブランドを驚くほど正確に伝えてくれます。お読みいただきありがとうございました。