受託でお預かりしているサイトの文章を、二週間ぶりに書き継いだ日のことです。新しいチャットを開いて「前回の続きをお願いします」と頼みましたら、Claude は迷いなく書き始めてくれました。
読み返して手が止まりました。二週間前に一度やめると決めたはずの構成で、最後まで書き上げられていたのです。
頼み方が雑だったのだろうと、そのときは考えておりました。けれど言い直しても同じところへ戻ります。原因は指示ではなく、私が二つの仕組みを一つだと思い込んでいたことにありました。
Claude が前の会話を引き継ぐ道は、メモリと過去チャットの検索という別々の二本です。似た顔をしていますが、保存される場所も、届く範囲も、消し方も違います。この二本を分けて考えられるようになってから、私の「前回の続き」はようやく前回の続きになりました。
覚えているものと、探しに行くもの
メモリは、会話をしているそばから Claude が項目として書き留めていく仕組みです。会話が終わってから要約を作るのではなく、話題が出たその場で保存されます。何が保存されているかは、設定のメモリ画面にあるトピックの一覧で読めます。一つずつ開いて書き換えることも、削除することもできます。
過去チャットの検索は、そのつど探しに行く仕組みです。「前に話した◯◯を探して」と頼むと、Claude は保存済みの会話を検索して、必要な部分だけを持ってきます。公式ヘルプでは RAG(検索拡張生成)と説明されており、画面上はツール呼び出しとして現れます。
| 観点 | メモリ | 過去チャットの検索 |
|---|---|---|
| 働くとき | 会話中に自動で保存され、次の会話では最初から効いています | 頼んだときだけ、その場で探しに行きます |
| 中身の確かめ方 | 設定のメモリ画面にトピックとして一覧されます | 回答に付く引用から元のチャットを開きます |
| 得意なこと | 役割・進行中の仕事・書き方の好みなど、変わりにくい前提 | 特定の日に決めたこと、具体的な文面や数字 |
| 苦手なこと | 更新前の情報が残り、古い前提のまま話が進みます | 手がかりの言葉がないと見つけられません |
| 使える範囲 | 無料・Pro・Max は既定でオン(Team と Enterprise は管理者が有効化) | 有料プラン(Pro・Max・Team・Enterprise)のみ |
ここで注意していただきたいのは、いちばん下の行です。無料プランにはメモリがあり、過去チャットの検索がありません。「Claude は前の話を覚えているのに、あの会話だけ持ってこられない」という食い違いは、機嫌の問題ではなくプランの線引きなのです。
人となりはメモリに、出来事は検索に。 この線引きを立ててから、頼み方の迷いがほとんど消えました。私の書き方の癖や、いつも使う見出しの形はメモリに預けておけます。一方で「二週間前にどの構成へ決めたか」は出来事ですので、覚えていることを当てにせず、探してもらうほうが確かです。
回答がどこから来たのかは、引用の有無で分かれます
検索が走ったときは、画面にツール呼び出しが現れ、回答には元のチャットへの引用が付きます。メモリから話しているときには、この引用が付きません。返ってきた文章に引用があるかどうかを見れば、いま Claude が何を根拠にしているのかが分かります。
私が古い構成で書き上げられた日、画面にツール呼び出しは出ておりませんでした。Claude は探しに行かず、メモリに残っていた古い前提だけで書いていたのです。いま思えば、手がかりは最初から画面に出ておりました。
長く書き継いでいる仕事では、いきなり続きを頼まず、次のように前置きを一つ挟んでおります。
前回の続きを書く前に、二つに分けて教えてください。
1. いまメモリに入っている、この仕事の前提
2. 過去のチャットを検索して分かった、直近の決定事項
2 については、引用元のチャットを示してください。前提と決定事項を先に並べてもらえば、書き始める前に食い違いに気づけます。古い前提が混じっていたら、その場で「その前提は変わりました」と伝えます。伝えた内容はメモリに反映され、次の会話から効きます。設定画面を開き直さずに直せるところが、この機能の親切な部分だと感じております。
プロジェクトの内と外は行き来しません
公式ヘルプが示している検索の範囲は二つです。プロジェクトに入っていないチャット全体と、個々のプロジェクトの中の会話。そして後者は、そのプロジェクトの中だけに限られます。
つまり、あるプロジェクトの会話は別のプロジェクトからは探せません。プロジェクトの外で交わした相談も、プロジェクトの中からは届きません。メモリも同じ形で、プロジェクトごとに別の空間を持ち、それぞれに専用の要約が用意されます。
私は受託の原稿を、思い立った日の気分でプロジェクトの中と外に散らしておりました。探しても出てこない会話がある理由が、これでようやく腑に落ちました。いまは、一つの仕事は一つのプロジェクトに閉じる、と決めております。プロジェクトの使い分けそのものについては、プロジェクト機能でコンテキストを管理する記事に書き残しております。
Cowork にも同じ線引きがあります。メモリがチャットと共有されるのは Cowork がクラウドで動いているときだけで、手元のパソコンで動くセッションはメモリを使いません。ローカルで走らせたタスクの前提が次のチャットに届かないのは、そういう仕様なのです。
会話を消しても、そこから作られたメモリは残ります
これがいちばん見落としやすい点だと感じております。会話を削除しても、あるいは保存期間が過ぎても、その会話から作られたメモリの項目は消えません。消したいときは、設定のメモリ画面でトピックを一つずつ削除します。
以前の体験(レガシー)では逆でした。削除した会話はメモリの統合結果から取り除かれ、24時間ごとに作り直されておりました。ですので昔の感覚のまま「あのチャットを消したから前提も消えた」と考えていると、古い前提だけが手つかずで残ります。
自分がどちらを使っているかは、設定の並びで見分けられます。設定に「メモリ」の項目があれば新しい体験、機能(Capabilities)の中にメモリがあればレガシーです。レガシーのメモリを書き出せる案内は 2026年9月9日までとヘルプに記されておりましたので、いま新しい画面をご覧になっている方は、移行後の姿だと考えて差し支えありません。メモリ機能が広く開放されたころの経緯は、メモリ機能が全ユーザーに開放されたときの記事にまとめております。
棚卸しの手順は三つです。
- 設定のメモリ画面を開き、トピックを上から読みます。役割・進行中の仕事・好みの三種類に目を通せば十分です
- 事実が変わった項目は、削除ではなく書き換えます。空白にするより、正しい前提を置いたほうが次の会話での取り違えが減ります
- もう動いていない仕事の項目は削除します
月に一度、五分あれば終わります。私は月初にこれをやるようにしました。
残したくない相談は、はじめから残らない場所で
新しいチャットの右上にあるゴーストのアイコンを押すと、シークレットチャットが開きます。ここでの会話は履歴に保存されず、メモリにも入らず、あとから検索の対象にもなりません。無料プランを含め、どのプランでも使えます。
私はこれを、捨てるかもしれない案を広げるときに使っております。三案のうち二案は形にならずに終わる——そういう相談を通常のチャットでやりますと、消えていったはずの案が前提として残り、あとで「その方向はやめました」と言い直す手間が生まれるからです。あとで消すより、はじめから残さないほうがはるかに軽く済みます。
ただし Team と Enterprise では扱いが変わります。シークレットチャットも組織のデータ書き出しには含まれ、保持のきまりに従います。個人の手元から見えなくなることと、組織の記録から消えることは別なのだと、お伝えしておきます。
今日いちばんに確かめていただきたいのは、設定のメモリ画面にあるトピックの一覧です。五分あれば読み終わります。そこに並んでいる文は、次にあなたが新しいチャットを開いたとき、あなたより先に話し始める言葉なのです。
古い前提のまま書き上げられた原稿を読み返したあの日から、私はこの一覧を月初に開くようにしました。書き継ぐ仕事が長くなるほど、覚えさせるものと探させるものを分けておいた効き目が出てまいります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。