夜、iPhone を持ったまま、友人への返事の書き出しで止まっていることがあります。伝えたい内容は決まっているのに、最初の一行が出てこないのです。そのまま画面を伏せて、翌朝に持ち越してしまうのです。指で文字を打つという行為には、思っていたよりも助走が要るのだと、あとになって気づきました。
Aqua Voice を使い始めてから、この助走がほとんど無くなりました。押しながら話して、指を離します。それだけで、いま入力しようとしていた欄に文字が入ります。
速さよりも先に、文章の質感が変わりました
導入したときは、単純に入力が速くなればいいと思っていました。実際に変わったのは、速さよりも先に文章の手ざわりのほうでした。
指で打った返事と、話して入れた返事を並べてみると、話したほうが明らかにやわらかいのです。理由はたぶん単純で、キーボードに向かうと、私は無意識に文字数を惜しむからです。ひと言添えれば伝わることを、打つのが面倒だという理由だけで削ってしまうのです。話すときには、その削り取りが起きません。
指で打つと要点まで削ってしまい、話すと削らずに済みます。 この差が、そのまま相手に届く文章の温度になっていたのだと思います。
友人にも勧めてみたところ、たいへん喜んでくれました。速くなったという話よりも、返信が億劫でなくなったという反応だったのが印象に残っています。
Cowork への指示が、いちばん相性がよいと感じています
いちばん使っているのは Cowork への指示です。
作業を頼むときには、背景と制約と、やってほしくないことまで含めて渡したほうが結果がよくなります。ところがこれを打とうとすると、それなりの分量になります。私はこれまで、頭の中にある文脈を箇条書きに直してから打ち込んでいました。この「直す」という工程が、実は一番の負担でした。
声で渡すようになってから、この工程が消えました。思いついた順のまま、条件も例外もひと息で話してしまえます。文の順序が多少前後していても、受け取る側は困りません。むしろ、整理する前の生の文脈がそのまま届くぶん、意図が正確に伝わっていると感じています。
話し方も少し変わりました。以前は「これをこう直して」と結論だけ打っていたのですが、いまは「いまこういう状態で、こうしたい。ただしこれは触らないでほしい」という順で話しています。打つ気にならなかった前置きを、声なら惜しまずに付けられるからです。前置きがあるぶん、やり直しは明らかに減りました。
固有名詞やコマンド名だけは、うまく入らないことがあります。私の対処は割り切りで、話すのは方針までにして、ライブラリ名やファイル名は後から指で足しています。よく使う語は Custom Dictionary に登録しておくと、この手間がさらに減ります。
Mac と iPhone では、使う場面が分かれます
両方で使っていますが、役割ははっきり分かれました。
| 環境 | 主な用途 | 向いている長さ |
|---|---|---|
| Mac | Cowork への指示、原稿の下書き、返信の草案 | 数十秒から数分のまとまった発話 |
| iPhone | LINE の返事、外出先でのメール | ひと息で言い切れる短い文 |
iPhone で効いてくるのは、画面の小ささが関係なくなることです。フリック入力では長い文章を書く気になれませんが、話すぶんには文の長さが負担になりません。外出先で届いたメールに、その場できちんとした返事を書けるようになりました。
ひとつ慣れが要ったのは、句読点や改行の入れ方です。話すときには意識していない区切りなので、最初のうちは一文が長くつながってしまいました。いまは、切りたいところで一拍おいて話すようにしています。この呼吸を覚えてしまえば、あとから直す箇所はほとんど無くなります。
「5 日ぶんの時間」という数字の受け取り方
アプリが節約できた時間を積算して見せてくれます。私の場合、いまのところ約 5 日ぶんになっています。
この数字は、話した語数を自分のタイピング速度と比べて算出されたものです。ですから、そのまま「5 日ぶん暇になった」という意味ではありません。実際には、浮いた時間の多くは推敲や確認に流れています。
それでも、この数字には意味があると感じています。削られていたのは作業時間そのものよりも、書き始めるまでの心理的な距離のほうでした。 手をつけられずに翌日へ送っていた連絡が、その場で片づくようになりました。積み上がった 5 日という表示は、そういう先送りが減った量として受け取っています。
いま不便に感じているところ
良いところばかり書いてしまうと公平ではないので、困っている点も残しておきます。
iPhone 側で、入力を終えたあとに元のアプリへ自動では戻らないことがあります。話し終えたら自分で画面を切り替える必要があり、短い返事を続けて打つときには、この一手間が気になります。
ただ、これは iOS のパブリックベータ版で起きている挙動です。作りかけの機能を先に触らせてもらっている以上、こうした粗さは織り込んでおくべきものだと思いますし、いずれ直るだろうと見ています。ベータではなく安定版を使う方であれば、まず出会わない話かもしれません。
しばらく続けてみて思うこと
音声入力は以前にも何度か試して、そのたびに使わなくなりました。うまくいかなかった理由は、いま振り返ると、入力するために別の場所を開かなければならなかったからだと思います。録音し、変換し、コピーして貼り付けるという往復を、毎回踏まなければなりませんでした。手間が入り口に置かれているうちは、結局キーボードのほうが速いのです。
いま使い続けられているのは、その往復が無いからです。カーソルのある場所に、話した言葉がそのまま入ります。技術的にはそれだけのことですが、続くか続かないかはこの一点で決まるのだと感じています。
もし試されるのでしたら、まずは Cowork への指示か、返事に困っているメール 1 通から始めてみてください。速さよりも先に、文章がやわらかくなることのほうに気づかれるかもしれません。
お読みいただきありがとうございました。