「広告をもう一段増やせば、その月の売上はたしかに伸びます」。これは何度も自分で試して確かめたことです。けれど数日後には、翌日にアプリを開いてくれる人の割合が静かに減っていく。短期の売上と、長く使ってもらえることの間で、私はずっと折り合いの付け方を探してきました。この3週間は、壁紙アプリのインタースティシャル(全画面広告)の表示頻度だけに絞って、その境目を測り直していました。その記録を、同じことで迷っている方の判断材料として残します。
私は2014年から個人で iOS / Android アプリを作り続けていて、壁紙や癒し系のアプリを中心に、累計で5,000万ダウンロードほどを運用しています。収益の柱は AdMob のインタースティシャルで、だからこそ「どのタイミングで、どれくらいの間隔で出すか」は、売上にも使い心地にも直接響く一番繊細なつまみです。
なぜ「フィルレートや単価」ではなく「頻度」を触ったのか
これまで広告まわりの調整というと、フィルレートを上げる、フロア価格を見直す、メディエーションの優先順位を入れ替える、といった「単価側」の話が中心でした。それぞれ効果はありました。ただ、ある時から数字が頭打ちになり、単価をこれ以上追っても伸びしろが小さいことに気づきました。
残っていたのは、いちばん触るのが怖い「表示頻度」でした。頻度は上げれば短期売上が増えるのが目に見えているぶん、つい増やしたくなります。けれど増やしすぎると、アプリを開いてすぐ広告、壁紙を1枚見るたびに広告、という体験になり、静かにアンインストールが増えます。怖いのは、この悪化が当日の売上には出ず、数日後の継続率に遅れて出てくることです。だから感覚だけで触ると、必ず判断を誤ります。
3週間の調整を、3段階に分けて測った
一気に変えると何が効いたのか分からなくなるので、1週間ごとに1つだけ条件を変えました。
最初の1週間は、それまでの設定を触らずに基準値を取りました。壁紙の閲覧が一定枚数を超えたら1回出す、という素朴なルールです。このときの翌日継続率と、ユーザー1人あたりの広告収益(ARPDAU)を、後で比べるための「ものさし」として記録しました。
2週目は、起動直後の広告をやめて、最初の1枚は必ず広告なしで見せるように変えました。狙いは「開いた瞬間の体験」を守ることです。
3週目は、表示間隔に最低クールダウン(前回表示から一定の秒数が経つまで次を出さない)を入れ、さらに1セッションあたりの上限回数を決めました。連続して壁紙をめくっても、一定間隔より短くは広告が出ない、という歯止めです。
調整の骨子(壁紙アプリのインタースティシャル)
- 基準週: 閲覧 N 枚ごとに表示(クールダウンなし・上限なし)
- 2週目: 起動直後は表示しない(最初の体験を守る)
- 3週目: 最低クールダウン秒 + 1セッション上限回数を追加
測る指標: 翌日継続率 / ARPDAU / 1セッションあたり表示回数クールダウンと上限回数は似ているようで役割が違います。クールダウンは「立て続けに出さない」ための歯止めで、短時間に集中して壁紙をめくる人の体験を守ります。一方の上限回数は「1セッションで出しすぎない」ための天井で、長く滞在してくれる人ほど広告漬けにならないように効きます。両方を入れて初めて、ヘビーユーザーとライトユーザーのどちらにも極端な体験が出にくくなりました。
数字そのものは私のアプリ固有のものなので、ここでは具体値ではなく動いた向きで書きます。2週目で翌日継続率がわずかに戻り、ARPDAU はほとんど落ちませんでした。3週目はセッションあたりの表示回数が目に見えて下がったのに、ARPDAU の下げ幅は想像よりずっと小さく、継続率はもう一段戻りました。要するに「回数を減らしても、減らした分だけ売上が減るわけではない」というのが、いちばんの収穫でした。
ひとつ寄り道の注意があります。起動直後の体験を守るつもりで全画面広告を消したのに、別に入れていたアプリ起動時広告(App Open Ad)が残っていて、結局「開いた瞬間に広告」が再現していた、という取りこぼしを2週目に見つけました。インタースティシャルだけ見ていると、起動時広告という別系統を見落とします。頻度を測るときは、利用者が一日に何回広告に触れるかを広告種別をまたいで合算して数えるのが正確だと、痛い目を見てから学びました。
Claude in Chrome を「読み合わせ役」にした
この手の調整でいちばん面倒なのは、判断材料が一か所にまとまっていないことです。広告収益は AdMob、継続率やセッション挙動は GA4、アンインストールや評価の変化は Google Play Console と App Store Connect。毎朝これを4つ開いて、頭の中で突き合わせるのは、地味に集中力を削られます。
そこでこの3週間は、Claude in Chrome に毎朝それぞれのダッシュボードを順に開いてもらい、「昨日と比べて継続率と ARPDAU がどう動いたか」「表示回数の変化と継続率の変化の向きが一致しているか」を一段落でまとめてもらう、という読み合わせをしていました。私がやっているのは最終判断だけで、数字を拾って並べる手前の作業を任せた形です。
注意しているのは、AI に判断そのものを委ねないことです。継続率が下がった理由は広告頻度とは限らず、その週のアップデート内容や新規流入の質でも動きます。だから出てきたまとめは「気づきの候補」として扱い、頻度を変えた週と動いた指標が時系列で噛み合っているかは、必ず自分の目で確かめました。読み合わせ役としては非常に頼りになりますが、最後に責任を持つのは作り手の側だと考えています。
3週間でいちばん腑に落ちたこと
祖父が二人とも宮大工で、私は子どもの頃から「人が触れるものは丁寧に扱う」という感覚を当たり前のように見て育ちました。広告の頻度を測り直しながら、何度もその感覚に戻されました。利用者の注意(アテンション)も、雑に何度も奪っていいものではなく、丁寧に扱うべき相手の時間なのだと思います。
そして実利の面でも、丁寧さは裏切りませんでした。頻度を欲張らずに下げても、長く開いてくれる人が増えれば、その人たちがもたらす広告表示の総量はむしろ安定します。1日単位の売上を最大化しにいくより、来週も開いてもらえる状態を守るほうが、結局は積み上がる。当たり前のようでいて、数字で確かめるまで自分でも半信半疑だったことです。
これから試すこと
次は、頻度を全ユーザー一律にせず、起動回数や利用日数でゆるく出し分けることを試します。使い始めたばかりの人には控えめに、すでに毎日開いてくれている人には標準的に、という段階づけです。ここでも測り方は同じで、1週間に1条件だけ変えて、継続率と ARPDAU の向きが噛み合うかを確かめます。
広告頻度の調整は派手な施策ではありませんが、個人開発の収益基盤を静かに支えてくれる部分だと感じています。同じように売上と使い心地の折り合いで迷っている方の、小さな手がかりになれば嬉しいです。お読みいただきありがとうございました。