朝、Google Play Console を開いて Android Vitals のページをスクロールしながら、ANR 率と Crash 率の小さな波を眺める時間が、ここ数年ずっと続いていました。アプリが少なければ気にならない作業ですが、壁紙系・癒し系を中心に複数本を並行で動かしていると、月曜の朝が一番気が重い時間になっていきます。3 週間ほど前、この巡回を Claude in Chrome に任せる構成に切り替えました。完全自動化ではなく、私が判断するべき部分は手元に残す、という設計です。今のところ、想定より静かに、想定より地味に効いているので、その地味さも含めて書き残しておきます。
両家の祖父がともに宮大工で、組み上げた建物の点検に何十年も通い続ける姿を子どもの頃から見ていました。Android Vitals の数字を見る時間は、私にとってあの点検作業と似ています。手を入れた箇所がどう変化しているか、季節(OS バージョン)が変わったときに歪みが出ていないか、を冷静に見るための時間です。だからこそ、AI に丸投げするのではなく、AI に下準備を任せて、私は判断に集中する形にしたかった、というのが今回の動機です。
なぜ Claude in Chrome に絞ったのか
API で Google Play Developer の数値を引いて、別の場所でレポート化するワークフローも一度検討しましたが、結局採用しませんでした。理由は単純で、Android Vitals の「ユーザーが認識する ANR 率」と「コア重要指標」は、Play Console の画面で見ないと文脈が抜け落ちるからです。グラフの軸、警告の色、しきい値超過のバッジ、機種別ブレイクダウン — これらは数値だけ抽出すると意味が薄くなります。
Claude in Chrome は、私が普段ブラウザで開いている Play Console のタブを、私の権限のまま「読みながら考える」存在として横に置けるところがありがたいです。スクリーンショットを撮って別のチャットに貼り直す手間が消え、ページを開いたまま「このアプリの ANR の主因はどの機種に偏っていそうか、過去 2 週間と比べてどう変わったか、要約してほしい」と頼めば、その場で読んで返してくれる。これだけのことなのですが、月曜の朝の心理的負荷がはっきり下がりました。
週次レビューの構成
私が今走らせている週次レビューは、月曜の朝に 1 時間枠で行います。Claude in Chrome を開き、対象アプリのリストを Markdown で渡して、決まった順番でページを巡回してもらいます。手順をあらかじめ Claude に渡すための短いプロンプトテンプレートを使っていて、内容はおおむね次のような構成です。
あなたは私の運用レビュー補佐です。以下の順で Google Play Console を見て、
各アプリについて「先週との差分」と「次の打ち手の候補」だけを箇条書きで返してください。
要約は1アプリあたり最大3行。所感は混ぜず、数字の変化と気になる箇所のみ。
巡回順:
1. ダッシュボード(インストール・アンインストール・収益)
2. Android Vitals → コア重要指標
3. Android Vitals → ANR・クラッシュ
4. Android Vitals → 起動時間・フレーム描画
5. レビュー → 1〜2スター
6. ポリシー → 警告/要対応
ポイントは「所感を混ぜない」ことを毎回明示している点です。AI が補佐に回るときは、解釈で水増しした文が混ざりやすく、それを読まされる側の認知負荷が上がります。「差分と打ち手の候補だけを並べてほしい」と最初に伝えるだけで、出力がかなり静かになります。
3 週間で見えてきた良かった点
最初の 1 週目は半信半疑でしたが、3 週目に入る頃には運用が安定してきました。良かった点を 3 つ挙げます。
1 つ目は、月曜の朝の作業時間が体感で半分以下になったことです。これまでは 1 アプリあたり 5〜7 分かけてページを行き来していましたが、Claude in Chrome に下読みしてもらい、私は要約された差分だけを見て、気になる箇所だけ自分でページを開く、という流れに変わりました。「何が変わったのか」を機械が拾い、「どう動くか」を私が決める、という分担です。
2 つ目は、見落としていた指標を拾えるようになったことです。私はこれまで ANR とクラッシュばかりに目が行きがちでしたが、Claude in Chrome は淡々と「起動時間が前週比で 8% 悪化しています」「最新の Android 15 のみクラッシュ率が高いです」のように、機種・OS のブレイクダウンを差分で拾ってきます。自分の視点の偏りを矯正してくれる感覚があります。
3 つ目は、レビュー欄の低評価の言い回しに対する一次反応を待たずに済むことです。星 1 や星 2 のレビューは、内容を読むより先に感情が動いてしまう瞬間があります。Claude in Chrome に「先週入った低評価レビューを、機能要望/バグ報告/使い方の誤解/その他 で分類して、件数だけ教えてください」と頼むと、感情の波を少し外して数字として読めるようになります。返信は私の言葉で書きますが、分類だけ機械に任せるのは、心理的にも実務的にも理にかなっていました。
任せなかった部分
逆に、3 週間運用してみて「これは AI に渡さないほうが良い」と確信した部分もあります。
一つは、ポリシー警告の一次解釈です。Google Play のポリシー違反通知は、表現の細部で対応方針が大きく変わります。私はここだけは、Claude in Chrome に「警告が来ているか/来ていないか」だけを返してもらい、内容の解釈は自分で原文を読む運用にしています。誤読のコストが他の指標と段違いに大きいからです。
もう一つは、リリース判断です。Vitals の数字が悪化していたとき、ロールバックするか、次のホットフィックスを待つか、追加配信を絞るか、という決定は、その時点のユーザー数・収益帯・他アプリのバランスを踏まえないと判断できません。これは現時点で私自身が引き受けるべき判断だと感じています。AI は判断の手前まで運んでくれますが、最後の一歩は人間が踏むのが、累計 5,000 万ダウンロードを越えてきたポートフォリオを預かる側の責任だと思っています。
運用のコツとして書き残しておきたいこと
3 週間の実運用で見えてきたコツを、3 つだけ書き残します。
1 つ目は「アプリリストを毎回渡す」ことです。Claude in Chrome は会話の文脈を保持しますが、巡回対象を毎回明示したほうが結果が安定します。リストは Markdown のチェックボックスで渡し、終わったアプリは ✓ を返してもらうと、抜けが減ります。
2 つ目は「過去 2 週分の数字を渡す」ことです。今週の値だけを見せると、Claude in Chrome の所感が抽象的になりがちです。前週・前々週との差分をテキストで貼っておくと、出力が具体的な数字に張り付くようになります。
3 つ目は「終わったらメモを 1 ファイルに残す」ことです。私は notes/android-vitals/YYYY-MM-DD.md という形で、Claude in Chrome の要約と、自分が取った決定を 1 ファイルに残しています。これは AI のための記録というより、3 ヶ月後の自分が「あのときなぜこの判断をしたか」を思い出すための記録です。
次に取り組むつもりのこと
来週からは、Android Vitals の週次レビューに、Google Play Console 側の「収益」タブと AdMob の月次レポートを統合する流れを試そうとしています。Vitals が安定していても、収益側で構造変化が起きていることがあり(メディエーションの落札が偏った、CPM が特定地域で下がった、など)、これを別タブで眺めるのは効率が悪くなってきました。Claude in Chrome に「Vitals → 収益 → 広告」の順で巡回させて、相関を 3 行だけ書いてもらう構成を試す予定です。
もう一つは、低評価レビューの分類と、社内向け(と言っても私一人ですが)の対応キューを GitHub Issues に自動連携する流れです。今は手元のメモにとどめていますが、対応の追跡が緩くなりがちなので、Claude in Chrome から Issue を起票する流れに寄せていきたいと考えています。
朝の Android Vitals 巡回は、12 年やってきた個人開発の中でも、地味さで言えば上位に入る作業でした。それを AI に任せきりにせず、AI に下読みを頼んで自分は判断に集中する、という形にできたのは、Claude in Chrome の使い方として個人的にしっくり来ています。同じように複数アプリを並行運用している方の参考になれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。